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昭和は遠くなりにけり

「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人か当てて見せよう」とは、名著『美味礼讃』の言だ。食の嗜好や習慣はおいそれとは変わらない、という皮肉がちょっぴり交じっている。でも最近とみに思うのは、体から余分なものを排出することは、口から栄養を取り入れるのと同じぐらい、根深い習慣であるということだ。
 
みなさんは、「農家民宿」をご存じだろうか。要は、普通の農家が農村での暮らしのおすそ分けをするような感じでヨソ者を泊める、とでも言えばよいか。ともかく、ある青年がとある村での農家民宿にハマり、毎年同じシーズンにその家に来るようになった。受け入れ側の農家も、青年を息子のようにかわいがった。ところが、家人らは妙なことに気付いた。青年は、夜な夜なこっそり家を抜け出すのだ。

田舎の夜道のことだから、足元が定まらないほど暗い。もちろん、夜遊びできるような施設も近くにはない。不審に思って後をつけてみた。すると、懐中電灯一本を手にした青年は、道路の脇にある公衆便所に急行した。あとで聞くと、どうしても「和式便所」になじめなかったらしい。それを気兼ねから家人に言いだせなかったとのことだった。

緑に恵まれた環境、素朴でおいしい食事、あふれる人情…たったひとつ、なじめなかったのが「便所」だったのだ。といっても香り豊かに漂う「ぼっとん便所」ではない。近代的な浄化水槽式だ。しかし、平成生まれの彼には、「和式」自身が耐えがたい異文化だったのだろう。

ちなみに、学校の先生をしている知人によると、この手の現象は別に珍しいことではないようだ。和式の使い方がわからない生徒が多いので、使用方法を校舎の便所の壁に張り出す、また修学旅行でも和式の割合が大きい宿泊先はとりあえず避ける、というのが常識らしい。理屈からすれば、器具との接触が必ず生じる洋式への方に、生理的な抵抗感を持ちやすいと思うのだが。

「どんなトイレを好むか言ってみたまえ。君がいつ生まれたか当てて見せよう」-絶滅危惧種「和式」に対するほのかな郷愁に、昭和の遠さを実感するタハラであった。

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